2016年11月12日土曜日

初音ミクとバレエ 『ドクター・コッペリウス』初演レポート

冨田勲 追悼特別講演『ドクター・コッペリウス』の初演を見てきたので、感想や解説をまとめたレポートとしてお伝えします。

冨田勲 追悼特別講演『ドクター・コッペリウス』より

初音ミク×冨田勲 再び

ドクター・コッペリウスは故 冨田勲氏が製作したスペース・バレエ・シンフォニーで、2016年11月11日渋谷 Bunkamura オーチャードホールにて初演が行われ、2017年春に再演を予定しています。

この公演ではドクター・コッペリウスの他に、イーハトーブ交響曲と惑星のリミックスも演奏されました。それでは演目の順に紹介していきたいと思います。

イーハトーブ交響曲

イーハトーブ交響曲は冨田勲氏が作曲したもので、2012年初演がありました。この交響曲の特徴は主に二つあります。一つ目は宮沢賢治の作品をモチーフにしたメロディや歌詞です。注文の多い料理店など有名な作品をモチーフに、楽曲が展開されていきます。

二つ目はオーケストラ・コーラス編成に初音ミクを本格的に組み合わせた点です。マジカルミライなどのように初音ミク側に合わせて演奏するのではなく、ミクさんの声・映像のほうを指揮へリアルタイムで合わせるという試みが行われました。オーケストラ編成の楽曲を作るだけならスキルさえあれば出来るかもしれませんが、実際に大所帯を率いて演奏まで行うとなると誰にでも出来ることではありません。技術的にも様々な方面への結びつき的にも、冨田勲氏でなければ実現できなかったものだと思います。

東京では過去2度ほど公演が行われていて、オーチャードホールでも一度演奏されています。今回の舞台セットはその時とおおよそ同じだったようで、舞台中央に床から3m程度は離してディラッドボードを設置して前面より2機のプロジェクターで投影していたようです。映像もその時使ったものと同じ、だったようでした。

もちろん曲もその時と同じなのですが、ミクさんの声がオーケストラやコーラスとよりマッチするよう調整されていたのかなと感じます。

気になった点としては、曲の始まり部分はオーケストラやコーラスの音が少しばらけているように感じました。後半ではあまり感じなくなったので修正されたような気もするのですが、詳しくは分かりませんでした。

惑星 Remix 演奏

冨田氏はクラシックの名曲をアナログシンセサイザーでアレンジ演奏して、世界的に高い評価を得ました。その中の一つにホルスト作曲の惑星があります。今回は追悼ということで、イギリスのエイドリアン・シャーウッド氏が冨田氏の惑星を更にアレンジして、「惑星 Planets Live Dub Mix 火星~水星~木星」としてリミックス演奏しました。この曲目に関しては立って体を揺らして良いと、変わった場内アナウンスがはいりました。

編成はエイドリアン・シャーウッド氏がシンセサイザーなどを操り、パーカッションが一人、ストリングスが二人です。ストリングスは通常のヴァイオリンなどでなく、エレキタイプのものを使用していました。

率直な感想を言うと微妙というのが正直なところです。冨田氏の惑星アレンジは冒頭にロケットで宇宙へ飛び立つような効果音が入っていたりと、宇宙旅行へ行くような雰囲気になっています。今回の演奏では軽快な銀河ハイウェイを進むような感じで、子気味良いアレンジになっていました。しかし殆どの場面でベースの音の主張が強く、ストリングスやメロディがあまり聞き取れず曲がかなりあやふやな印象を受けました。私が普段こういった曲をあまり聞かないことや、座席の問題もあったのかもしれませんが、正直に言えばちょっと・・・というのが本音です。

ドクター・コッペリウス

一部は欠番に

今回メインのバレエ組曲です。本来は7楽章で完成だったのですが、冨田氏が製作途中に亡くなってしまうという残念な事態になってしまい、完全でない形で初演が行われることになりました。製作に携わっていた方々がある程度形になっていた第3~7楽章を完成させ、手つかずで未完になった第1~2楽章を補う0楽章を作りました。

バレエ組曲なので当然ストーリーがあるのですが、これが何とも言葉で表しにくいのです。なので、会場でもらった小冊子やパンフを参考に伝わらないこと承知で、おおまかに書いてみようと思います。詳しくは会場で売ってる公式のパンフレットにあるので、生で見る方は絶対に買ったほうが良いです。このバレエを見ただけでは断片的に理解できても、大まかな内容も理解するのも難しいと思います。また、入場時に配られる小冊子のあらすじである程度理解できますが、パンフと比べると情報量が圧倒的に足りません。パンフを買って製作背景などを知って、やっとどんな内容だったかわ分かると思います。欠番した楽章のストーリーについてもあるので、その点でもお勧めです。

まず、この楽曲の着想についてです。日本のロケット開発の第一人者だった故糸川博士は、高齢でありながら生前バレーを習い始めました。そうした中ホログラフィックとバレエを踊ってみたいと語っていたそうです。なので、この楽曲の根本はそこにあるようです。そして糸川博士の生涯と、羽衣伝説を組み合わて出来たのが今回の楽曲というわけです。

糸川博士と羽衣伝説モチーフのストーリー

次に登場人物です。主人公のドクターコッペリウス、演者は風間無限さんです。ドクターコッペリウスはロケット科学者で劇中でもロケットを開発ており、ミクとの出会いなどを経て自身も宇宙へ飛び立ちます。もうお分かりと思いますが、糸川博士がモチーフのキャラクターです。名前のコッペリウスですが、バレエ組曲コッペリアのコッペリウス博士にちなんでいます。

ヒロインのミク、演者はもちろん我らが初音ミクです。天女の娘という設定で、不思議な力を持っています。劇中ではロケット開発に息詰まるコッペリウスを不思議な力で宇宙へ連れて行ったりし、導きます。

ミクの母の小江、演者は秋山桃子さん。月の裏のラグランジュ点の天女です。天女伝説と同じく水浴びをしていたところ漁師に羽衣隠され漁師と結婚することになり、娘のミクを儲けます。そして漁師の旦那の死後月へ帰ります。しかし、帰ろうとしたときにミクが見つからなかったので、仕方なく一人で月へ帰ります。劇中ではミクを無理やり月に連れ帰ります。ちなみに月の裏のラグランジュ点ですが、つまるところガンダムで言うサイド3があるとこです。実は悪いジオン星人なのかもしれませんね・・・

ラグランジュの子供たち、演者は小学生高学年ぐらい?の女の子たちです。名前の通り月のラグランジュポイントに住む子供達です。

上演された部分の大まかなストーリーです。不思議な力でコッペリウスを宇宙へ連れ出すミク、そこでミクを連れ帰ろうとする小江に合いますが、この時はミクが拒否したため小江は帰ります。その後もコッペリウスはミクと宇宙へ飛び出しイトカワへ行ったり、研究に挫折したときに習ったバレエをミクと楽しんでいました。ある日ミクとデュエットを踊っていたコッペリウスですが、月へ連れ帰る決意を固めた小江が現れ、嫌がるミクを無理やり連れ帰りました。悲しみにくれていたコッペリウスはトランペットを吹き始め、そのことで本当の全ての愛に目覚めます。そして小惑星探査機はやぶさと一体化したコッペリウスの魂は、プラネット9に月に帰ったはずのミクが歌い舞う姿を見つけます。 コッペリウスはミクに共鳴するようにプラネット9へ向かい物語は終わります。パンフと小冊子を参考に強引にまとたのでアレですが、こんな感じです。

ハーフミラーによる投影

前置きが長くなりましたが、ドクターコッペリウスのレポートに入ります。まず舞台の様子ですが、投影方法が変更されていました。プロジェクターは舞台真上から下へ垂直に投射し、床に置いた斜め45度のハーフミラーを使って正面へ投影していたようです。この方式はクリプトンが作った「ビーマーベィビィ」というもので、パネルを日本カーバイド工業がハーフミラーを提供しています。ペッパーズ・ゴーストよりも高い没入感を実現しているとあります。意図してなのかは分かりませんが、この時の映像はだいぶぼやけているようでした。
※コメント欄からの情報提供ありがとうございます!

そして舞台上には二つの立方体がつるされています。この立方体は各辺が鉄パイプで出来おり、その辺の至る所から立方体中央にある布へ糸が伸びていて、モーターで引っ張ることで布が形が変えられるようになっていました。この布には効果映像や、ミクさんなどが投影されていました。イトカワをモチーフにしたのではないでしょうか。また、このモーターの動作音が結構大きなものでした。SE的に聞こえて面白い場面もあれば、ちょっと雰囲気にあってないような感じで音が響く場面もありました。

オーケストラが挟むようにして舞台真ん中はバレダンサーが踊れるスペースが花道上に確保されていて、コッペリウスや小江に扮したダンサーが踊ります。

より親和性が増したミクの声

まず思ったのがミクの声の違和感の少なさです。イーハトーブ交響曲を初めて聞いた時は、ミクさんの声がかなり浮いてるなと思ったのですが、今回はマッチしていました。前回ほど言葉を詰めず、伸びやかに歌わせる場面が多かったのが良かったのかなと思います。早口が得意と思われがちなVOCALOIDですが、童謡のように伸びやかに歌わせると調整なしでも結構綺麗に歌ってくれます。そっちのほうに照準を合わせて調整したのが良かったのではないでしょうか?ただ、初見で聞き取れる程かと言えば、他のボカロ曲同様難しい場面が多かったです。イーハトーブ交響曲より親和性が格段に上がっているのを考えると、冨田氏が次の曲を作っていたらと頭がよぎってしまいます。

コッペリウスとミクとのデュエット

私はバレーを初めて生で見たのですが、新鮮で面白かったです。キレのあるピシっとした動きを見るだけでも楽しめたのですが、ミクとのデュエットをこなすところには面白さと共に関心してしまいました。人と違い目くばせしながら合わせるというのが出来ないのに、違和感なく踊っていました。さらにコッペリウスがミクを持ちげるようなポーズをとる場面では、違和感が無いと言ったら嘘になりますが、今できる限りの範囲で違和感がないよう演じることが出来ていたと思います。

尻切れ感が出てしまった最後

頭の楽章はとてもさわやかな印象で、5~6楽章も内容に反してくどい感じはなく、私は好きな雰囲気です。ただ、1~2楽章がなかった分なのか、7楽章の盛り上がり感が出なかったような印象も確かに受けました。パンフレットにあった話を見る限り、1~2楽章はミクさんの母小江の地上での苦悩を描く重めの話を元に曲をつくる予定だったようで、ちゃんと溜めが入ればまた印象も違ったと思います。ネットを見ると尻切れ感のような感想もありましたが、7楽章が希望への旅路で曲調もさっぱりした作りだっただけに、余計にそういった印象を持つ人もいたのかもしれません。

と、今回はこんな感じでした。私としては十分満足感のあるものでしたし、満足感を感じたからこそ、本当の完成形を見てみたかった気もします。近い未来ホログフィックを越えて、ミクさんがバレエが出来る時代が来ると思います。そう思うと糸川博士と冨田氏の旅は今はまだ途中であり、今回の作品で私もその旅に参加したいと思えました。そんな時代が早く来ることを願って、終わりにしたいと思います。

2 件のコメント:

  1. 投影方式は、ペッパーゴーストではないようです。こちらに解説がありました。
    http://www.carbide.co.jp/jp/viewer/file/topics/b89ba137ee26463974bb1c1d41d686d7.pdf/b89ba137ee26463974bb1c1d41d686d7.pdf#search=%27dr+%E3%82%B3%E3%83%83%E3%83%9A%E3%83%AA%E3%82%A6%E3%82%B9+%E6%8A%95%E5%BD%B1%E6%96%B9%E5%BC%8F%27

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  2. お返事が遅くなってしまいました。ペッパーズゴーストでないということで、資料がとても参考になりました。記事のほうにも反映させました。確かにマジカルミライっぽい感じもちょっと違うような感じもします。反面今回のも凄くリアルかという「うーん…」といのが率直な感想です。難しいところですね。

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